俳句の部屋(シリーズ3)

〇世界最短定型詩の快感

  五七五の17音が定型の世界で最も短い詩。遊びと言いながら、そう言われているのも確かです。ここで大事なことは「短いことがいいことだ」という特徴です。五七五の言葉のリズムと短い言い切りがおしゃれで、目にも耳にも心地良いのです。俳句を作り出した頃、句が一気に口から音として飛び出た瞬間、この快感を実感しました。
この快感は現代的で、かつ、日本人に限らず人々に共通なグローバルなものです。外国でも「世界で最も短い詩」に目覚め、英訳された日本の俳句に親しみ、英語で俳句を詠む人達が増えているそうです。
名句には耳に響く一字毎の音のリズムやハーモニーが心地良いものが多いのです。この心地良い俳句は口で詠んで音にしてみないと本当の良さがわかりません。ちょっと、音楽のようでもあります。
五七五の17音で、自分が感動した自然の営みを表現して見せ、他人に同様の感動をもたらし、時には、詠み人の心情の奥まで感じ取っていただける「表現のツール」であると言えましょう。

前置きが長くなってしまいました。何はともあれ、自らこれまでに作った俳句をご紹介しましょう。まずは、何の説明も加えず、俳句に触れていただきたいと思います。。

 

素晴らしき明日の予感春の星

春の夜の壁にモジリアニの女 

麦は芽にここら関東ローム層          

花石榴こぼれ昔の郭町          

実石榴の弾ぜて少年失恋す

日翳りて勿忘草の部屋となる       

郭公や森のホテルのカフェテラス       

囀りに手が届くほど森の宿  

桜桃はワイングラスに盛られけり  

夏蝶や黒部の谷を高渡る  

集落は同姓ばかり墓洗う    

新涼や桧の湯舟溢れけり  

秋風となる街角の靴磨   

過去未来繋ぐ一日や鰯雲 

淋しきは山頭火の句秋燈下 

新聞を手に取るにおい冬あたたか

おつかいの子の抱えたる葱一把 

着膨れて異邦人めく人の群れ

山塊が迫れる町の冬の暮 

ヒロインの顔の翳りやシクラメン 

階段に夜警の靴音冴え返る                   

猫と居てビバルディ聴く夜寒かな    

凍てる夜や貨車連結の音走る

   

以上の句は20代前半から後半にかけての5年間ほどの年代(1970年代中盤から1980年頃)に俳句結社「かつらぎ」の同人誌に投稿し、掲載された句に一部です。巧拙はともかく絵画的な句が多いように思います。カタカナが多用されていることにも気づかされます。どちらかと言えば、花や生き物等に焦点が当たった句は少なく、日常の生活の中で、見つけた季節の風景などのスナップ写真のような句が多かったように思います。何かを感じ、または共鳴していただけた句はありましたでしょうか。
実は、この時期以降、勤務していた商社での海外出張、駐在といった多忙な時期が続き、50代後半までは、作句はしても、同人活動や投稿をすることはありませんでした。むしろ、40代前半(1990年代)、ある生命保険会社が主催する「サラリーマン川柳」に応募し入選、それをきっかけにNHKおはよう日本から取材を受け、番組に出演したり、文芸春秋の特集で山藤正二さんが選ぶ「サラリーマン川柳傑作50選」に掲載されたりし、思い付きでパッと作れる川柳に足を踏み入れたりしました。この頃、俳句も川柳も、落語のように他人のある種の受けを狙う「言葉遊び」だということに気づいたのです。

 

地球よりまずは社員を大切に

会社から毎晩家に通ってる

ワープロもたたけぬ上司の誤字探し

七転び八起きの前に社が転び

会議室喫煙室兼仮眠室

寅さんがいなくて寂しいお正月

失楽園」見たのあなたもおまえこそ

減った分減らしておいたわあなたの分

 

(次回もお楽しみに!)